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長寿

JUGEMテーマ:日記・一般

 

先日妻と買い物に出かけている時、知らない番号の電話が掛かってきた。

わが市の局番だったので、電話に出た。

すると、「警察のものですが、Sさんはお父様ですか」と父の名前をいう。

「はい、そうですが。何か」と尋ねると、警察官は自転車に乗った父が赤信号を無視して、交差点を渡ったという。

父は私の電話や住所を書いた紙を持っていたので、警察官は私に連絡してきたのだ。

父はボケてはいないが、耳が遠く会話はぎこちない。

警察官は父の生年月日を聞いて、驚いていた。

95歳が自転車に乗って、喫茶店コメダに出かけているのだから。

「信号無視で検察から自宅に書類が届きます」と私に告げ、「気を付けてあげてください」と言い残して、電話を切った。

父曰く、青信号で交差点に入ると途中で赤に変わったが、急に自転車を止められずそのまま渡ってしまったと。

 

正直なところ、父がこれほど長生きするとは思わなかった。

還暦まで、晩酌はいつもビールと酒を飲んでいたし、タバコもハイライトを2箱吸っていた。

(今は酒もたばこも嗜んでいない)

ウォーキングや体操など、健康的なことをしていた記憶は全くない。

 

70歳代と80歳代で、2度脳梗塞で入院している。

70歳代での入院の際の脳検査では脳幹の近くに血管の詰まりが見られた。

脳幹は生命維持に重要な部分なので、医師から突然死のケースもありえると告げられた。

80歳代での入院の際、MRI検査では首のあたりの血管がかなり詰まっている状態だと、医師から告げられた。

医師の診断を聞くたびに、そろそろ見送る心づもりをしておかないといけないなぁと思ったものだ。

 

それ以来何事もなく、10年近く経ち95歳を迎えた。

2週間に一度、近くの内科で診察を受けているが、医師が「健康ですね。ご立派です」と、感心ばかりしている。

毎日自転車でコメダまで通っているというと、医師は「100歳は大丈夫ですよ」とか、「120歳まで頑張ってください」と、励ましを込めて言う。

 

父の長生きの秘訣は、マイペースを貫いていることだと思う。

ひとりで淡々と生きている、そんな印象だ。

人との関わりを持つことを嫌い、心を許すような友人がいたという記憶がない。

家族にも深く関心を抱くような様子を見せることが無かったし、他人のために一生懸命汗を流すこともなかった。

とにかく、他人とのコミュニケーションを嫌っていた。

 

そういえば、私にとって、父は父性を感じにくい人だった。

父との思い出も少ない。

そうかといって、父は家族を大切にしない訳ではない。

経済的に家族を困らせたことはないし、父を重荷に感じたこともない。

怒られた記憶もなければ、褒められた記憶もない。

淡々と家族に接し、空気のような存在だった。

その反動で、私は母性にのめり込んでいた。

 

そんな父親は最近、「もう、いい加減に死にたいなぁ」と呟く。

95歳も生きれば、そんな気持ちにもなるだろう。

また、「どうやって、死んでいくんやろう」と言って、死に方への不安な気持ちを覗かせている。

父は人生を終えることを恐れているのではない。

悲惨な末路を迎えるのを恐れている。

それは、病院のベッドにつながれたまま、苦しみや悲しみの気持ちを発散できない状態だ。

まさに、母がそうだった。

寝たきりの状態で、7年間過ごして亡くなった。

 

誰もがスーッと、眠るように、最後を迎えたいと願っている。

だが、神様はめったに安楽な死を用意してくれない。

ほとんどの人がもがきながら死の時を迎え、あの世へ行く。

 

現在、父は「身体に痛いところはどこもない」と言い、100歳まで生きる勢いだ。

「自転車は止めたほうが良い」と注意するのだが、聞いてくれない。

1日に一度、自転車に乗って喫茶店でコーヒーを飲みたいという。

 

そんなマイペースな父親に、安らかな死が与えられるように望むばかりである。

author:金ブン, category:人生, 09:34
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