- イビキをかく
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2019.08.03 Saturday
JUGEMテーマ:健康
自分自身で満足していることが、いつのまにか他人を不愉快にさせている。
そんなことは人生の中で、頻繁にあると思う。
先週、脳外科病院に6日間入院した。
その入院生活での印象に残っていることがある。
イビキである。
入院する前の診察で、担当医が家内に尋ねた。
「ご主人はイビキをかかれますか?」
家内は「かきます」と答えた。
「ウソ、僕はイビキかかへんやろ」と横から私が言うと、「時々、かいてるよ」と妻ははっきりと言った。
「ご主人、自分のイビキは判りませんからね」と、妻に味方する。
私は4人部屋に入った。
私は眠りが浅いし、人のイビキを気にするほうだ。
だから、他人と同室に寝る旅行などには必ず耳栓を持っていく。
今回も耳栓を持参した。
初日の夜、消灯になると早速イビキのデュエットが聞こえてくる。
しかし、耳栓が功を奏して、何とか眠りにつくことが出来た。
翌日、2人が退院して、私ともうひとり48歳の若者(A君と呼んでおく)が残った。
A君は私が入院する4日前、自宅の風呂で倒れ救急車で運ばれてきたという。
脳出血で、右半身に麻痺を起していた。
治療やリハビリに、1ヶ月程度の入院が必要だと告げられたという。
その夜、A君は無呼吸症候群のような不規則なイビキを繰り返していた。
だが、この時も耳栓が役に立った。
翌日の夜も同様だった。
A君の病気の原因はこのイビキが影響しているような気にする。
その翌日の夕方、A君は別の病室に移動していった。
病室はひとりになり、今夜はやっと静かな眠りにつけるとホッとしていた。
ところが、世の中は甘くない。
夕食後、歩けない老人(Bさんと呼んでおく)がベッドに寝かされた状態で、病室に運ばれてきた。
Bさんは他の人の治療機器の音がうるさいと訴えて、移動してきたのだ。
この人、少し認知症が入っているらしく、翌日看護師や事務職員に、何度も「わしは何で部屋を変わったのか。わしが何かしたのかな?」と尋ねていた。
自分が希望して、部屋を替えてもらったことを忘れてしまっているのだ。
訊かれた看護師たちも認知症患者になれているようで、尋ねられるたびに「いえ、Bさんが何かをした訳ではありませんよ。急病の患者が入ったので、部屋を変わってもらったのですよ」と優しく応対していた。
消灯すると、このBさんは早速イビキを掻きはじめる。
この世のものとは思えないほど大きなイビキで、しかも不規則なのだ。
この騒音に対して耳栓が全く効果を発揮することなく、私は眠れない夜を過ごした。
その後もこの人と一緒の部屋にいると思うとぞっとするのだが、幸い私は翌日の午後に退院が決まっていた。
退院の日の朝、隣のベッドに新しい患者(Cさんと呼ぶ)が入ってきた。
私は今夜CさんがBさんの大きなイビキに悩ませられるだろうなぁと、同情した。
ところが、その同情は余計なことだった。
昼食を終えて、このCさんが昼寝を始めた。
すると、Bさんに負けず劣らずの騒音が聞こえてきたのだ。
Cさんのイビキ音も不規則で、大きな音の後はしばらく静まり、再びゴーゴーと唸り出す。
すると、イヤホンでテレビを観ていたらしいBさんはイビキ音を堪りかねて、「うるさい」と言っていたが、当然、眠っているCさんには届かない。
看護師が病室にやってきた時もCさんのイビキは続いていて、Bさんは「うるさいイビキやろ」と看護師に言いながら、「僕はイビキ防止機器を付けているから心配ないけど」と、ぬけぬけと言い放つのだ。
「あんたは知らんやろうが、あんたのイビキもそれ以上にうるさいんやで」と言ってやりたかった。
その日の夜から、ふたりのイビキ共演はどうなっただろう。
脳外科の患者はほとんどイビキ騒音を発しているのではないか。
誰もが、自分は静かに眠っていると信じているのだ。
一度、自分のイビキを録音してみれば良い。
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