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老人のもがき

JUGEMテーマ:日記・一般

 

先月、パソコン関係の会社を経営しているI君から連絡があった。

2年ぶりに声を聞いた。

3歳年下で、彼が大学生だった頃からの知り合いだ。

 

「ちょっと、頼みたいことがあるねん」と、いつものタメぐちで言う。

頼み事というのは、退職した私にとってやっかいな内容だった。

 

彼の会社の得意先に、カウンセラーの資格講座を運営している会社がある。

その会社からパソコンを買ってもらったり、インターネット回線を設置したりと、通信関係の仕事を請け負っているという。

最近、ホームページやSNSの制作の仕事をもらった。

打ち合わせの際、そこの事務長さんから、「資格講座の受講生の集まりが悪いので、なんか良い広告の方法がないか」との相談があった。

 

そこでI君は、広告代理店に勤めていた私のことを思い出して、電話してきたのだ。

「もう退職して3年も経つし、それに最後はほとんど総務や経理の仕事をしていたので、募集広告なんて相談されても無理や」と、すぐに断った。

その会社は全国規模の社団法人だ。

私が勤めていた会社は総合広告代理店といっても、主に交通広告を取り扱う小さな町工場のような会社だ。

それに、私は広告営業の現場から10年以上も離れているのだ。

 

「必要なら、前の会社にいる営業を誰か紹介するし、コンサルで良ければ友達を紹介する」と、付け加えた。

するとI君は、「それは次の段階で良いから。とにかく会って、話だけでも訊いてほしいんや」と、執拗に食い下がる。

I君は思いこんだら、強引なところがある。

 

「久しぶりに、食事でもしよう」としつこく誘うので、梅田で会うことになってしまった。

もちろん、私はカウンセラーの会社に行くつもりは毛頭無かった。

 

歳を取ると、心にダメージを受けることを極力避けるようになる。

イヤな思いをしたくないのだ。

文化財のガイドボランティアをしたり、老人相手にパソコンを教えたり、またシルバー人材センターで気ままに仕事を手伝ったり、今の生活は刺激的なことが無いものの、平穏で気楽だ。

私は沢田研二のように縛られる過去の栄光など持っていない。

今さら現役の人と向かい合って、広告戦略を話す能力もモチベーションもない。

とにかく断るつもりで、梅田に出かけたのだが…。

 

身体に入ったアルコールは判断力を鈍らせる。

I君が予約してくれた梅田のホテルのレストランで、コース料理を食べた。

(コース料理といっても、飲み放題付きで3800円だと言った)

最近家でほとんど飲んでなかったので、ビールが身体に回った。

想い出話や本・映画の話で、酒宴は盛り上がった。

 

結局、「同行してくれるだけで良いから」の言葉に、「付いて行くだけなら」と承諾してしまった。

帰宅して酔いから覚めると、後悔することになった。

同行したら、黙って座っている訳にはいかない。

行くからには、I君の商売の後押しが出来るようなことを言わないといけない。

プレッシャーを感じた。

 

資格講座の生徒を集めるのは難題だ。

社団法人の事務長と云われる人なら、いろんな方法を試しているだろう。

それでも集まりが悪いというのに、業界の一線から遠ざかっている私のような老人に適切なアドバイスなど出来る訳がないのだ。

 

翌日早速、I君から1週間後にアポイントが取れたとの連絡があった。

先方へ行くことが現実になると、急に重たい気分になった。

訪問する以上、資格講座のことや業界のことを知らないといけない。

インターネットで、調べてみた。

私がアドバイス出来るとしたら、交通広告を中心にした募集広告しかない。

幸い、ネットには料金などの媒体資料が公開されている。

予備知識を用意して、本町にある事務所へI君に同行して出かけた。

退職以来初めて、ビジネススーツを着てネクタイを締めた。

 

会議室に通されて、事務長さんを待った。

営業していた頃、こんなシーンを何度も経験した。

新規セールスにしても紹介セールスにしても、初めての面談する時はいつもこんな緊張感を味わっていた。

久しぶりに味わう、その雰囲気が懐かしくもあった。

 

現れた事務長さんは私と同年配の人だった。

だが、のほほんと暮らしている私と違って、さすがに貫録があり落ちついていた。

幸いなことに、その人は饒舌だった。

私は<募集人数の現状>や<これまでどんな広告をされていたのか>を尋ね、ひたすら聞き役に回った。

 

想像していたとおり、いろんな広告を経験されていた。

私が話せる広告の知識など、ほとんど知っていたのだ。

私は交通広告の生徒募集例を営業時代の経験談を交えながら話したが、事務長さんが興味を示した様子はなかった。

それでも取りとめもない話で、40分程面談した。

 

結局最後に、「どうも貴重なお時間をいただいたのに、お役に立つような話が出来ませんでしたね」と私が言うと、優しく微笑んでおられた。

退職して現場を離れている老人との話の結末を、事務長さんは会う前から判っておられたようだ。

I君は昔から早とちりしやすい性格の男だった。

「生徒がなかなか集まらないんですよ」という愚痴めいた話を、I君はまともな商談と受けとめたのだろう。

パソコンから通信システムの構築、ホームページやSNSの制作を任されているので、事務長の言葉に過剰に反応したようだ。

事務長さんがI君の会社に求めているのは、ホームページやSNSをいかに効果的に運用するかの適切なアドバイスなのだ。

 

今回、久しぶりに現役社会の張り詰めた営みの中に身を置いたことは、良い体験だったと思う。

高齢化社会で、近い将来企業の継続雇用が70歳に引き上げられようとしている。

65歳の私はまだまだ働かないといけないのだろうが、哀しいかな、平穏な生活になれてしまうと戦う気力は徐々先細っていく。

author:金ブン, category:人生, 18:08
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