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小さな人助け

JUGEMテーマ:日記・一般

 

今週整骨院に出かけた帰り、自転車の自損事故に遭遇した。

 

私は自転車で、真っすぐ伸びる歩道を走っていた。

200m程先に、自転車が転ぶのが見えた。

転んだ人は立ちあがること無く、倒れている。

歩道には人通りがあるが、誰も立ち止まる様子がない。

 

私の自転車が倒れている人に近づいて行く。

「痛い、痛い」と言いながら、男性が額を押さえてうずくまっている。

風体から、30代か40代ぐらいに見えた。

近くに自転車が倒れていて、その横に上新電機の買い物袋が落ちていた。

 

「大丈夫ですか」

私は自転車を止めて、男性に近づく。

額を押さえている手の間から血が滴り落ちている。

私はカバンからティッシュペーパーを出して、男性に渡す。

「ヒィーヒィー」と言いながら、男性はティッシュで血の付いた手や額を拭うが、すぐにティッシュは血で染まった。

舗装された歩道は滴り落ちる血で真っ赤に染まっている。

私はもう一つティッシュを取り出して、男性の額を押さえてあげた。

 

「救急車に電話しましょうか?」と私がいうと、か細い声で「自分で掛けますから」と、震える手でカバンからスマホを取り出して、119番していた。

意識ははっきりしている。

男性は電話に出たオペレーターに、自転車で転んだことを言い、居る場所を伝えていた。

 

その間、通行人たちが横目で見ながら通り、車道では多くの車が通り過ぎていく。

通行人たちは私と男性がぶつかったと思っているようだった。

私は男性のそばにしゃがんで、額を押さえてあげた。

ティッシュが真っ赤になっているので、カバンからゴミ袋を取り出し、赤く染まったティッシュを中に入れた。

そうしていると、通り過ぎようとしていたオバサンが自転車を止め、心配そうな表情で「大丈夫ですか」と声を掛ける。

「今、救急車を呼んでいますから」というと、オバサンはカバンからティッシュを取り出して、私に渡した。

「ありがとうございます」と礼を言い、ティッシュを受け取り、すぐにそのティッシュを使って男性の血を拭いた。

「どうも、すみません」と男性はか細い声で私に礼を言う。

男性の顔色は青ざめて、左目の眉毛の上あたりがぽっかりと切れていた。

「血はほとんど止まっていますし、もうすぐ、救急車が来ますからね」と、私は男性を慰めるように言った。

 

私たちの横を、学生、老人、親子連れが通り過ぎていく。

すると、さっきとは別のオバサンが「大丈夫ですか」と言って自転車を止め、心配そうな表情で、座っている男性を見る。

「もうすぐ、救急車が来ますから」と、再び私は男性を代弁して答える。

その人もバックからポケットティッシュを取り出して、私に手渡した。

私がお礼を言うと、オバサンは同情の表情を浮かべて、自転車に乗って立ち去った。

 

老若男女、通行人が通り過ぎていくが、声を掛けていくのはオバサンだけだった。

他の通行人は横目で見るのだが、すっと通り過ぎていく。

自転車が2台止まり、男性のひとりが血を流し、その男性を私が介護している風景はまさに自転車衝突事故の光景そのものだった。

私が加害者に見えていたのだろう。

 

やがて、遠くから救急車の警笛が聞こえてくる。

「救急車が来たようですよ」

私が男性に言うと、「ありがとうございます」と言って、男性は頭を下げた。

そして、スマホを取り出して、「お世話になりました。後でお礼をしたいので、お名前と電話番号を教えてください」と私に言った。

「いや、別に。気にしないでください」と返すと、男性は「是非、お願いします」と執拗に求め、スマホに文字を打とうと待っている。

仕方なく、私は名前と電話番号を言うと、震える指でスマホに打ちこんでいた。

 

救急車が歩道横に停車し、救護員がふたり降りてきた。

男性は名前と住所を告げ、自転車で転んで顔面を打ったことを伝えていた。

救護員が私の方を見るので、「私は通りすがりのものです」というと、「そうですか、それはありがとうございます」と、頭を下げた。

 

救護員は男性に「対応できる病院に連絡して、運びますので」と言うと、男性は「自転車も乗りますでしょうか」と訊く。

「それはダメです。救護するのは被害者だけですので」というと、「困ったな」と男性は戸惑っていた。

目の前には家族葬をする葬儀場があった。

「ここで預かってもらったら」と私が言うと、男性は少し考えていた。

「何なら、頼んでみましょうか」

私は親切心が増長して、余計な口出しをした。

すると、慌てて救護員のひとりが、「いやいや、私たちからお願いしてみます。こんな格好をしているほうが頼みやすいですから」と言った。

「確かにそうですね」と応え、私は自転車に乗って立ち去った。

 

最初、遠くで男性が倒れているのが見えた時、通行人の誰かが助けるのだろうと思っていた。

だが、私が近づくまで、誰も声さえ掛けなかった。

もしも他の通行人が声を掛けて介抱していたら、おそらく私は通り過ぎていただろう。

本来、私は面倒なことから遠ざかる人間なのだ。

 

大したことをしたわけではないが、ちょっぴり人助けをしたことで、気持ちが軽やかになっていた。

 

今週読んだ「定年後」という本に、昨年亡くなられた聖路加国際病院名誉院長だった日野原重明が小学生向けの命の授業で語った言葉が紹介されていた。

<命を誰かのために使いなさい>

この言葉が腑に落ちた。

 

命を使うほどの大袈裟なことではないけれど、ちょっとした行動で人の役に立つことは楽しいことだ。

やはり、適度なお節介は必要なのだ。

自転車を止めて、ポケットティッシュを手渡してくれたオバサンたちを見て、そう思った。

author:金ブン, category:人生, 10:00
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