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口が渇く

JUGEMテーマ:日記・一般

 

その異常を感じたのは、会社の朝礼が始まってからのことだ。

 

50代半ばの頃、会社で月曜日の朝礼が始まった。

当番の社員が3分間スピーチをすることになった。

当時私は京都営業所に所属していて、3ヵ月に一度スピーチの当番が回ってきた。

その頃は多少緊張するものの、その異常は感じなかった。

おそらく、営業所の人数が10人程度だったからだろう。

 

数年後大阪本社に異動となり、やがてスピーチの当番がやってきた。

自分自身、人前で話すことが苦手だと思っていなかった。

中学生の頃は生徒会の副会長で司会したりしていたし、大学卒業後もコンサートに参加して人前で歌ったりしゃべったりもしていた。

その時どんなに緊張しても、普通に話すことができた。

それに、朝礼の話題もたくさん持っていたし…。

 

大阪本社の社員約30名の前でスピーチした時、初めて異常を感じた。

話しだすと、急激に口が渇くのだ。

すると、口がスムーズに動かなくなり、滑舌(かつぜつ)が悪くなってしまう。

話しにくいし、それが気になって話す内容もチグハグになった。

 

水がそばにあれば良いのだが、朝礼で水を持って話す訳にはいかない。

そこで、酸っぱいアメを口の奥に忍ばせることにした。

すると、その症状は解消されて、問題なく話すことが出来るようになった。

その後もうっかりとアメを用意するのを忘れていると、やはりその異常は続くのだった。

 

退職してからというもの、多くの人の前で話す事がなくなった。

文化財のボランティアガイドを始めたといえ、ガイドする相手の人数は2,3人の少人数から、多くて15人程度だ。

何度か、ガイドしたが、その異常は現れなかった。

 

ところが…。

先週、ボランティアの会が主催する歴史ウォーキングがあった。

8つのガイドポイントの内、私は2番目にガイドをすることになった。

9時の集合時間には30人近くの参加者が集まっていた。

 

今回のガイドは自分にとって話しやすい内容だったので、自信があった。

だが、参加者を目の前にして、急激に緊張感が高まってきた。

私は自意識が強いために、物事に対して緊張しやすい性格なのだ。

べつに仕事でもないのだから、失敗しても誰からも咎められることは無い。

そんなことは重々分かっているのだが、上手くやろうとすることが頭の中を駆け巡って、気持ちが高ぶっていく。

 

ガイドするポイントに近づくにつれ、口が渇いてくるのだ。

手持ちの水を何度も飲んだ。

しかし、すぐに口が渇いてしまう。

アメは持ってこなかったことに、後悔した。

 

ガイドポイントに着いて話し始めると、渇いているために口が思うように動かない。

話す順番がバラバラになり、頭の中が混乱していた。

滑舌(かつぜつ)の悪さから、参加者には内容が聞きづらかっただろう。

何度も口を拭い、間合いを取りしながら、ガイドを終えた。

 

スマホで写真を撮ってもらうように頼んでいたメンバーの人が言う。

「資料に隠れて、顔全体が写ってないよ」

 

 

カラカラに乾いて動きが悪い口元を資料で隠していたので、顔の下半分が隠れた写真になっていた。

 

ガイドが終わって、80歳のSさん(大阪のオバちゃん風)から「お疲れさん」と、アメを貰った。
ガイドする前に欲しかったのにと思ったが、後の祭りである。

 

緊張して口腔乾燥症(ドライマウス)になるのは一種の精神疾患のひとつのようだ。

「緊張しにくい体質をつくるには『セロトニン』を十分に分泌させることが大切」なんだとか。

 

酸っぱいアメを口に含んでおくだけで解消するのだから、精神疾患というほど大袈裟なことではない。

ただ、緊張する場面でもジタバタせず、泰然自若の姿勢で臨みたいと思う。

だが、どんなに歳を重ねても、それは無理なような気がする。

author:金ブン, category:日常の出来事, 09:18
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