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震える指し手

JUGEMテーマ:ニュース

 

将棋ファンのひとりとして、今年は楽しい一年だった。

 

当然、中学生棋士の藤井聡太の活躍と羽生棋士の永世七冠。

特に、羽生が永世七冠を獲得して、国民栄誉賞を受賞することは印象的な出来事だ。

 

1966年に七大タイトルを独占した時も国民栄誉賞の候補になった。

だが、その時は20代半ばでまだ若いという声があり、見送られた。

若いというより、まだまだ伸び盛りで記録を伸ばす勢いがあった。

将来、大きな記録を作りだすであろう予感が将棋界にあった。

永世の七冠を獲得することも夢ではないと思われていた。

 

だが、その過程はかなり苦難の道のりだった。

 

2008年の竜王戦で、羽生の永世七冠は目の前にあった。

10年前のことだ。

将棋ファンの誰もが、羽生が竜王位を獲得すると信じていたはず。

このタイトル戦は勝負の怖さを思い知らされる戦いだった。

 

当時渡辺竜王は4期連続で竜王位を保持していた。

永世竜王という称号を得るには、竜王位を5期連続で獲得するか、通算7期獲得するかの条件があった。

過去に竜王の永世称号を獲得した棋士はいない。(竜王位の歴史が浅いこともあるが)

 

挑戦者になった羽生はすでに、名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖の永世称号を持っていた。

残るは竜王永世のみだった。

 

普通のプロ棋士にとって、タイトルを一つでも獲得するのが難しい。

永世資格となると、余程の実力者でなければ、獲得はさらに難しいものなのだ。

 

10年前(2008年)の第21期竜王戦は特に永世称号の獲得を巡って、注目されていた。

勝ったほうが永世竜王を手にするのだ。

渡辺竜王が勝てば5期連続となり、羽生が勝てば通算7期目となる。

 

竜王戦が始まると、圧倒的に羽生の強さが目立っていた。

第1局目から3局目までは、羽生の指し回しの上手さで3連勝する。

逆に、渡辺竜王は調子が悪かった。

世間が永世七冠を期待する風潮だっただけに、その雰囲気に押されているような感じだった。

 

そして、第4局目は11月26日・27日、熊本県で行われた。

ファンの予想も羽生の4連勝に傾いている。

予想どおり、羽生棋士の優勢となり、勝勢に向かっていく。

 

だが、将棋は逆転のゲームだ。

9回裏10対0でも、ひとつのミスや思い違いで逆転する。

渡辺竜王の「王」は羽生の猛攻撃の前に逃げ場の無い場所まで、追い詰められる。

永世七冠誕生が目の前にあった。

 

ところが、羽生の持ち駒がわずかに足りないので、詰められない。

開き直った渡辺竜王が逆転の指し手を見つけ出し、あっという間に勝利を手にした。

これで、渡辺竜王はやっと1勝したものの、まだ1勝3敗と崖っぷちは変わらない。

羽生はまだまだ有利だ。

 

だが、勝負事には流れがある。

この流れを神のいたずらとか言ったりするが…。

 

続く5局目と6局目は渡辺竜王が勝ち、タイに持ち込むのだ。

7冠すべてを制覇したことがあり、数々の苦戦を克服してきた勝負師羽生であっても、勝負の流れに取り戻すことが出来ない。

 

結局、最終局も負け、羽生の永世7冠は成らなかった。

逆転した渡辺竜王が永世竜王を獲得したのだった。

 

その2年後、再び竜王挑戦の権利を得て渡辺竜王に挑戦したが、2勝4敗で永世7冠は成らなかった。

その後は若手棋士の台頭で徐々にタイトルを失い、なかなか竜王へのタイトル挑戦権も得られなかった。

もう、永世七冠は無理じゃないかと思っていたのだが。

 

羽生には様々な癖がある。

その中に、勝利を確信した時に駒を置く指が小刻みに震えるという癖がある。

この癖は圧倒的に強かった若い頃からのものではなく、40代に入ってから目立つようになったもののようだ。

1局の勝利が、いかに苦難を乗り越えて手にした産物であるかを表している。

 

永世七冠を目前にした一手を指す時、その指が震えているのをカメラが映していた。

 

author:金ブン, category:社会ネタ, 10:54
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