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平成25年の本・映画

今、青木理の「トラオ」という本を読んでいる。

トラオとは徳田虎雄のことだ。

猪瀬都知事への献金問題で、その姿をよくテレビに見た。

現在、ALS(筋委縮性側策硬化症)に罹り、闘病中の身だ。

ALSは原因も判らず、治療法も無い。

 

全身の運動機能が徐々にと衰えていく。

食べ物を咀嚼することが出来なくなり、胃ろうをする。

呼吸する力が無くなり、人工呼吸器を付ける。

筋肉の機能が最後まで残るのは肛門の筋肉で、最終的にはその筋肉を収縮することで会話を行うと、立花隆の「脳死」で読んだことがある。

実に、恐ろしい病だ。

 

現在、徳田虎雄は目の動きで会話している。

胃ろうをし、人工呼吸器をつけ、目の筋肉だけが動いている。

文字盤を目で追い、介護者がその目の動きで言葉を読み取る。

その様子がテレビに映されていた。

その映像を見ていると、徳田虎雄という人物について知りたくなった。

 

興味を持つと、それに関する本を読むことにしている。

今年読んだノンフィクションは32冊。

最も印象に残っているのは、「消された一家」だ。

2002年に北九州で起きた監禁殺人事件を詳細に取材している。

犯罪史上稀にみる猟奇事件で、7人の肉親たちが殺し合った密室殺人を事細かく描写している。

人間はどこまで残忍になれるのか。

ページをめくるたびに、考え込んでしまった。

この本を読むきっかけは、尼崎で起きた監禁殺人事件だ。

主犯で刑務所で首つり自殺した角田美代子は、私と同じ中学で4年先輩だった。

 

事件物では、その他に、宅間守 精神鑑定書」「どん底」「加害者家族」が印象に残っている。

高山文彦の「どん底 部落差別自作自演事件」は友人から薦められた。

被差別部落出身の嘱託職員に誹謗中傷するハガキが送りつけられるのだが、送り付けた犯人が実は嘱託職員本人だったという事件。

ずいぶん昔の、遠い世界の話と思っていた部落差別が今も厳然と残っている事実に、やりきれない気持ちになった。

 

その他、震災当時福島第一原発の所長だった吉田昌郎の奮闘を取材した「死の淵を見た男」も印象深い。

 

小説は24冊読んだ。

新聞の書評で目に止まった本や友人から薦められた本など。

直木賞受賞作(ホテルローヤル、等伯など)や本屋大賞も、図書館で予約して読んだ。

 

「半沢直樹」で話題を集めた池井戸潤の作品「七つの会議」が良かった。

不祥事を隠ぺいしていく会社の体質が身につまされる。

「空飛ぶタイヤ」にしろ、「下町ロケット」にしろ、池井戸潤の企業小説はハズレが無い。

 

吉田修一の「横道世之介」は物語の展開が上手く、一気に読み終えた。

また、中学生の時友人から突然殴られて、理由も解らずまま絶交された経験を持つ私にとって、村上春樹の「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は共感を持って読むことが出来た。

でも、友人から、「この小説は何が言いたいのか?」と尋ねられたが、答えられなかった。

 

本屋大賞に輝いた「海賊と呼ばれた男」は自慢話ばかりを書き連ねた伝記で、むしろ退屈だった。

他、奥田英朗は5冊読んだが、「無理」と「最悪」は、不眠症の夜長を癒してくれた。

 

もうひとつ印象に残っているのが、林真理子の「野心のすすめ」。

書籍案内には「“高望み”で、人生は変わる。駆け上がってきた時代を振り返りつつ、人生は何度でもリセットできることを説く、著者初の人生論新書」とある。

この本の出版をきっかけに、最近頻繁にテレビに出演している。

以前、恋愛小説は良く読んだが、恋愛における男と女の狡賢さを表現させたら、実に上手い作家だと思う。

 

こんなエピソードが書いてある。

ある日、夫と原宿で食事をしていた。

その店に偶然作家の渡辺淳一がやってきた。

仲良く夫と食事している林を見て、「女性作家たるもの、夫と夕食を伴にするとは!」と、渡辺淳一は叱ったという。

健康的な日常生活を送る人は小説家になれないと書く。

その言葉を信じるなら、西村賢太は小説家に向いているのだろう。

西村賢太の新作「歪んだ忌日」も、相変わらず面白かった。

 

映画は102本鑑賞した。

やはり、「鍵泥棒のメソッド」が一番良かった。

私の好きな映画「運命じゃない人」を監督した、内田けんじの作品。

「半沢直樹」で話題になった堺雅人と香川照之のコンビが、偶然に人生が逆転してしまった2人の男性をコミカルに演じている。

日本アカデミー賞の脚本賞を受賞しただけに、ストーリーの展開が実に巧みだった。

また、「ライフ・オブ・パイ」も、アカデミー賞の監督賞、撮影賞などの4部門に輝いた作品で、CGの映像が見事だった。

 

10年前に公開された映画だが、「ジョゼと虎と魚たち」も印象に残っている。

伊丹の郷土作家田辺聖子の短編小説を映画化したもの。

大学生と足に障害を持つジョゼとの恋愛物語だが、ラストで突然妻夫木が座りこんで泣きだすシーンが甘酸っぱく切ない。

 

このブログを書き始めてから、少し手を止めて、「トラオ」を読んだ。

もうすぐ、読み終える。

猪瀬直樹が徳州会グループから5000万円の献金を受け、その真相を隠し続けた理由が何となく判る気がしてくる。

それは医療グループ徳州会の理事長徳田虎雄が持つ「人間臭」に影響されているからではないか。

徳田虎雄は、目的のために手段を選ばない。

その目的は、時に世間から私利私欲であると評されるけれども、一途で純粋だ。

スローガンは「生命だけは平等」。

モットーは「年中無休、24時間オープン」、「患者からの贈り物は一切受け取らない」、「困った人には健康保険の3割負担も免除する」など。

公職選挙法に抵触する強引な選挙活動を考えると、こんなモットーなんて、眉唾ものだと思うだろう。

でも、ALSという難病に侵されながら、病院経営や医療改革に取り組み続ける生き様神々しささえ感じてしまう。

徳田と会った人たちはその人間臭に魅了されてしまう。(敵も多いが)

著者青木理は、そんな徳田虎雄に教祖のような宗教臭さえ感じると書く。

 

人間の行動はなんと不可思議なものなのか。

様々な事件や特異な人間の生き様を読んだり観たりすると、つくづく感じる。

そして、これからももっと知りたいと思うのだ。

 

好き勝手にブログを書いてきたが、平成25年はこれで終了。

来年も、よろしくお願いします。 
author:金ブン, category:読書, 14:40
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